第９９７号／越えなくてはならないのに、永遠に越えられないように、今なお立ちはだかる存在感。

父親と一緒に釣りに行った場所に、
何十年ぶり？に通る機会があった。

「あれ、ここは、昔親父と釣りに来た場所だ」。


まだ釣りのやり方もわからなかった頃、
連れて行ってもらった記憶。


怖さ半分、ワクワク半分。

餌をつけて湖に投げると、
なんとなくソワソワした感覚。


人の記憶って、
きちんと残っているんですよね。


何本目かに投げた瞬間、
すぐにアタリがきて、
すごい引きがあり、
必死に竿を釣り上げると、
３０センチ近くのボラという魚が
かかっていました。


私の最初のプロデューサーであった父親は、
人の魅力を引き出すことが秀でていたので、
女性だけでなく、男性にも、モテていて、
周囲の人からも、
一目置かれていて、
私に対しても、
事あるごとに、褒めてくれたのですが、
ここでも、

「やっぱり、お前はすごいなぁ。
初めて間もないのに、
こんなに大きな魚を釣って。
なかなかできることじゃないぞ！」

と言ってくれ、
お世辞とわかっていても、
子ども心に、
「嬉しさと小さな自信」をもらったことを、
昨日のことのように
はっきり覚えています。

その原体験は、
何十年たっても色あせる事なく、
むしろそこに
自分の最初のアイデンティティーを
確立してもらったのかな、と。

翻って、
自分が父親になり、
そんな目に見えない大切な事を、
示してあげられているのか、と
自分自身を省みざるえません。


越えなくてはならないのに、
永遠に越えられないように、
今なお立ちはだかる存在感。


お盆の時期は、
私にとって、
そんな父親を
いつもよりみじかに感じ、
またこの人の子どもでよかった、
またこの人の子どもとして生まれてきたい、と
噛みしめる時期でもあるのです。




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発行責任者／尾又　大輔

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